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前回に引き続き、今回は内容や書く上での考え方などを中心にお話します。多岐にわたるので書ききれない部分もあるのですが、重要と思えるポイントを10個だけ列挙してみました。皆さんの参考になればと思います。
1.「報告書フォーム」を作らないこと
- 書式程度まではいいが、記載項目まで指定した報告書フォームを作らないこと。確かに作業効率は上がりますが、必要な情報とそうでない情報がごちゃまぜになり、書き手も読み手も内容をよく読みこまなくなります。前回の内容をコピーして手直しするというやり方が横行するのもこんな場合で、これをしていると報告書がどんどん形骸化していきます。
- → 報告書とチェックリストを混同しないこと。報告書はビジネスで最も重要なコミュニケーションの一手段だという認識を持っておくべきです。たかが報告書とバカにしてはいけません。最初は上手く書けなくて当然ですが、次第に上手くなるはずです。上手く書こうと悩んだ時間の分だけ、自分のコミュニケーション能力がアップしてゆくのだという信念を持って取り組むことが重要です。
2.読み手が誰かをイメージすること
- 報告書はコミュニケーションなので、必ず「読み手」が存在します。この「読み手」に焦点を合わせた書き方をすることが大事です。「誰にでも分かるように書いておこう」とか「ここは必要かどうか分からないけどとりあえず書いておこう」などという考え方をしていると、無駄な情報が増えてどんどん冗長な報告書になってしまいます。
- → 読み手の立場や知識レベル、興味、決裁権限によって書くべき内容は変わります。大事なのは、読み手にとって必要な情報が書かれていることと、不要なものをができるだけ削られていること。特に初心者は報告モレを恐れるあまり後者の視点を怠ることが多いので注意が必要です。読み手にピタリと焦点が合ったオーダーメイドな報告書が最も読みやすい報告書だという価値観を持つべきです。
3.報告書のテーマが妥当かどうか吟味すること
- あなたがある業務を任されている場合には、そのルーチンワークの中身について報告する必要は基本的にはありません。報告書のテーマとすべきなのは、ルーチンワークの枠をはみ出した事柄(予定通りに進んでいない、あるいはイレギュラーな案件が発生した)や上司がルーチン全体を概観する時に必要な情報です。例えば、ある商品の企画を任されているプロデューサーが、順調に進んでいるパッケージの印刷日程をくどくど報告する必要などありません。
- → ここで重要なのは、「自分の役回り」を正確に認識することです。例えば下記の様な点です。
- 自分が何を任されているのか
- 自分の業務の中でのルーチンは何か
- 上司が自分の仕事をどのように統括しているのか
- ※ 日本の会社ではこれらの点は明確に定義されない場合も多いのですが、自分なりのイメージを持つことはできます。良い仕事をする人は、多くの場合、自分の仕事に対する明確なイメージを持っています。勿論、一緒に動く相手との連携も大事なので、自分のイメージと相手のイメージとのズレを常に微調整するスタンスも重要です。
4.読み手にとって意味のある問題提起なのか自問すること
- 報告書の中で何かを報告・相談する場合には、読み手にとって意味のある問題提起になっていないといけません。上記2,3がしっかりできていれば大きく外すことはないと思いますが、常にチェックは必要です。具体的には、下記の様な自問自答を繰り返してみると良いと思います。
- → 下記を自問自答して答えに窮するようなら、まだまだ書き直しが必要ということです。
- で、何が言いたいの?
- そんなものお前が判断する仕事じゃないの?
- どうしましょうったって、どうしようもないだろそれじゃ
- そもそもウチは関係ないんじゃないの?
- それで何かウチは問題になるの?
- それっていつものことでしょ?
5.いらない情報は削除すること
- 関係のない情報、不必要な情報はできるだけ削除するのが原則です。無くても良い文言が入っていることは即ち冗長だということです。優れた報告書は、一行たりとも無駄な文章がないもの。だからこそ、読み手も自分の全精力を中心となっている問題に集中できるわけです。簡潔こそ美徳であり、贅肉のない筋肉質な文章が「切れ」のある仕事を生むという価値観を持つことが重要です。
- → テーマ設定や問題提起などの他に、文章作成上の問題で冗長になるケースは、「まどろっこしい言い回し」と「抽象的な表現」です。
(1)まどろっこしい言い回し
- 二重否定の文章(例:そんなことはないわけではない)
- 異常に長い文章(短い2文に分ける)
- 途中で主語が入れ替わる文章
- 本題に関係ない不必要な比喩
- 不必要な注釈(PS(プレイステーション)→皆知っているよ!)
など基本的には英語の授業で出てくる「SVO」「SVOC」を意識しながら文章を書くと良いと思います。
(2)抽象的な表現
「一生懸命」「頑張る」「いい感じ」「かなり大きい」「たくさん」「凄い人気」「絶賛」「慎重に」「各方面に意見を伺いながら」「適切な」・・・・
(1行に2~3個出現しているようなら要注意)
6.略しすぎないこと
- 余分な情報を削除したり、略語を多用した結果、意味不明になってしまうこともあるので要注意。ちゃんと相手の知識レベルを考えていれば大丈夫なはずですが、独り善がりな文章を書く人は意外に多いので時々自己診断しましょう。
- 例 :PS2の期待作であるワイワイの受注は先月のPJによるCP終了を待って行うこととしたい。
7.余計なデコレーションをしないこと
- 重要部分を強調しようとして、太字やアンダーラインを多用するのも私は好きではありません。安易に太字やアンダーラインに頼ると、文章を書く練習にならず進歩が止まってしまいます。ひどいものになると、何が重要なのかを選別せずに滅多やたらとアンダーラインを引き、結局アンダーラインだらけで何がなんだか分からない、というものもあります。
- → 重要なポイントを示そうとする前に、本当にそれが重要なのか、という自問自答も忘れてはいけません。また、必要な部分を強調するのはほとんどの場合、文章の書き方で解決できるといことも忘れるべきではありません。重要なポイントを普通に文章を書きながら強調するのは大変なことですし、強調できるポイントの数も限られてきます。しかし、この制約の中で悩みながら文章を書くことで、切れのいい文章を書く力が養われてゆくのだと思います。
8.事実関係を正確に書くこと
- これは非常に頻度が高く、なおかつ危険性の高いミスです。
例えば「○○○です」という言い切りの文章。これは事実を表現するものでなくてはいけません。- 「当社の前期の経常利益は10億円でした。」はOK。
- 「これは過去最高益です。」これもOK。
- 「来期も増益になります」これは駄目。未来のことなど誰にも分からないのだから事実ではありません。これは誰かの意見です。
- 貴方の予測なら「来期も増益になると思われます」
- 会社の予測なら「来期も増益と会社は予測しています」
- 一般にそう思われているなら「来期も増益になると見られています」
と書かなくてはなりません。
また、「これは問題ない」という言い回しにも注意しなくてはなりません。これが許されるのは書き手自身が問題の有無を判断できる(決定権限がある)場合のみです。例えば、貴方が何らかの諮問を受ける立場で、その案件について意見を述べる場合などです。それ以外の場合は、
- 「これは問題ないと思われます」(自分の判断)
- 「これは問題ないと聞いています」(誰かの判断)
- 「これは問題ないと言われています」(一般常識からの比較表現)
という形で使い分けなければなりません。
事実が正確に伝わらないと経営判断のミスにつながります。細かい話ですが、コミュニケーションとしては非常に重要なポイントです。
9.表現の統一
- 報告書の中ではある事柄を表す言葉はただ一つの言葉でなくてはなりません。例えば、プレイステーションを「プレステ」や「PS」と書いてみたり、「当社」と表現していたのが途中から「同社」になるなど。こういう表現のズレがあると、読み手に余計な負担をかけることになります。
- → 読みやすい文章は、用語の定義のはっきりした文章。プログラムを書くような正確な定義で書かれた文章は、斜め読みでも正確に意味を汲み取ることができる文章でもあり、読み手にとって非常に分かりやすく感じます。
10.定形句の活用
- 報告書で頻出する文章表現について、定型的な言い回しのパターンを持っておくと作業が効率的に進みます。まずテーマと問題提起を考え(ここは極めて人間的な作業)、それを報告書用のボキャブラリを使って文章に落とし込む(ここは作業なので極限まで効率化)という感覚です。
なお、同じ趣旨で使う表現を複数用意しておくと、続けて使う場合にもワンパターンにならずに読みやすい文章になります。
- (1)事実関係
「現状では~」「~です。」「~という状況。」「~という形」(2)自分の判断
「~と思います。」「~と考えます。」「~と判断しています。」
「~と思われます」「~と考えられます」(3)自分の意見
「~すべきです。」「~した方が良いと思います。」
「~する必要があります。」「~することが必須です。」
「~に留意すべきです。」「~することが重要です。」
「~好ましくありません。」「~懸念があります。」
「~のリスクがあります。」「~になる可能性があります。」(4)伝聞・推測
「~と聞いています。」「~とのこと。」
「~の模様。」「~の様子。」(5)客観的判断
「~と言われています。」「~と見られています。」(6)先方の判断・主張
「~という意向です。」「~としたい考えのようです。」
「~と要請されています。」「~と主張しています。」(7)当方の主張
「指示しています。」「要求しています。」
「依頼しています。」「要請しています。」(8)今後の予定
「~という予定。」「~という計画です。」「~という方向です」(9)先方の対応待ちの場合
「電話待ちの状況です。」「回答待ちの状況です。」(10)様子を見るとき
「当面、静観します。」「様子をみます。」(11)こちらからは何もしない時
「何かあれば対応します。」「受身で対応します。」(12)未知の状況に対応する基本方針
「~してゆくつもりです。」「~というスタンスで対応します。」(13)接続詞
並列:「また、」「なお、」「さらに、」(この順番で使う)
対立:「一方、」「他方:」
但し:「ただし、」「なお、」
備考:「ちなみに、」「参考までに、」(14)決裁者の判断を仰ぐ
「ご指示をお待ちしております。」「ご判断ください。」(15)特に指示なければ自分で進める
「問題があればご指摘ください。○○日までに指示がなければこの方向で進めます」
以上
(2000年5月掲載)