マジカルナンバー・セブン

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定番ネタですが・・・・

認知心理学の有名な論文で「Magical Number Seven」というのがあります。人間の短期記憶を研究した論文で、アットランダムに並べた数字を記憶する場合、ほとんどの人間が7桁±2桁の数字しか記憶できないというもの。つまり、人間の短期記憶(パソコンで言うとRAMに相当するものかな)は同時に7つの事柄しか記憶できないという論文です。

人間が何かを考えたり、理解したりする場合も、情報は一旦短期記憶の中でプールされることになります。一瞬、7つしか覚えられないのになんで複雑なことを考えられるんだ?と思いますが、「言葉」があるからこれが可能になるわけです。「耳が垂れていて尻尾が巻いていない白地に黒斑の犬」というと7つのメモリを一杯に使ってしまいますが、「ダルメシアン」と言えば1つのメモリしか消費しない。

だから言葉は人間の思考にとって非常に大事だし、専門的で複雑なことを考える場合には、自然と「専門用語」というのが生まれてくるわけです。専門用語を使いこなせる人には何でもないような事柄でも、それが使えない人にとっては非常に複雑に感じる。これはその専門用語がプリセットされているか否かの違いということだと思います。

さて、我々が日常的に行っている仕事も、新しい物事を理解し、考えることの連続です。そのために報告があり、説明がある。ここで忘れてはいけないは、報告を受ける相手の頭の中には7つのメモリーしかないことです。自分の頭の中では一つの概念として理解されてプリセットされているような事柄でも、相手にとってはそれだけでいくつかのメモリーを消費する事柄かもしれません。相手のメモリーの限界を超えるような説明の仕方だと、「君の言っていることはよく理解できない」ということになってしまいます。

報告や説明を確実に相手に理解してもらうにはどうしたらいいか。それは、単純明快にまとめる、ということに尽きます。報告書を書くのであれば、報告書全体の論理構成をシンプルにし、数字を出すのであれば必要な数字をよく選んで書き出すことが非常に重要になります。

A4一枚にまとめてくれ、と言われて小さい字でびっしり書いた資料を作る人がいますが、これは努力の方向を間違っていると思います。また、最近はエクセルで複雑なスプレッドシートも簡単に作れるため、様々な数字が書かれた表を何枚も出す人がいますがこれも駄目。「複雑なことをやっているんだ」ということを表現する”絵”としての効果はありますが、内容を理解してもらうのはかえって難しくなってしまいます。

普通の字でA4一枚しか使えないなら書けることが限られてしまうじゃないか、と行き詰るのが素人で、優秀なビジネスマンは複雑な状況をどうすれば一言で説明できるか、ということに心血を注ぐものです。「いかに簡単にまとめられるか」が真の能力ですし、それを明確に表現できるのが真の技術だと思います。複雑な資料を作ったり、難しいことを言ったりする人は凄そうに見えますが、コミュニケーションに関する限りは、このようなスタイルは「ダサい」と考えておいた方が良いでしょう。専門用語を使って相手を煙に巻くよりも、専門用語を平易な言葉に置き換えて説明できる方が優れている。こういう価値観を持つことはビジネスマンとして非常に大事だと思います。

ボストン・コンサルティング・グループのあるマネージャーは、新人が自分の意見の理由を説明するときに「それって3つあって・・・・」という言葉から話し始めるように指導するそうです。確かにこういう形で話し始めると、自然と単純明快に話をまとめるようになります。これは、人間の理解力の限界を経験論的に実感した結果生み出された習慣ではないかと思います。

皆さんも仕事をする時には、是非このことを頭の隅に置いてみてください。

(2000年5月掲載)

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