温泉合宿の件

(読了時間=約 2 分)

日曜日なのでくだらない話を。前のゲーム会社時代の話です。

ゲーム会社に入って1ヶ月ほど経った頃、全く唐突に関西のある会社を買収するという話が持ち上がった。

指示されるままに関西に出張し、A社のデューデリジェンスまがいのことをすることになった。最初は戸惑ったけど、会って見るとA社の社長は誠実そうな人だし、経営企画の担当者も優秀だった。業態的には厳しいものを感じたけれども、働いている人が好感を持てる人たちだったので、やれるだけ前向きに取り組もうと思った。

さて、話が大分進んだ頃になって、うちの社長が秘書を通じてA社の社長に「温泉合宿」の誘いを出した。伊豆の温泉宿を借り切って、付き人は無しで二人でサシで話をするというもの。今後の事業ビジョンについてじっくり話をしましょう、という説明だったけど、社長としては、まとまった時間を一緒に過ごすことで人物を見定めようとしていたんだと思う。

形式上は依頼の形だったが、買収されるA社の社長に選択権はあるわけもなく、社長はわざわざ温泉につかりに関西から伊豆まで単身で出張してきた。

合宿が終わった翌週、また関西のA社に行った際に先方の社長に

「どうでした?」

と水を向けると、

「いやいや、大変なことがありまして・・」

と。

A社社長は夕方にチェックインして、それから夕食をはさんでいろいろな話をしたそうだ。ただ、彼が予想していたような将来の事業ビジョンのような話はほとんどなく、今まで話しをしたことの繰り返しや、物凄く莫然とした業界観みたいな話ばかりで若干がっかりしたらしい。

わざわざ忙しい合間をぬって来たのに何やねんこれは、と半ば憮然としながら夕食を終え、二人で温泉を浸かりに行ったそうだ。

何となく話が噛み合わない雰囲気の中でA社の社長は早々に湯から上がると、一人さっさと浴衣を着て部屋に戻った。部屋に戻ると、ちょうど旅館の人が寝る支度をしてくれたところ。

しかし、その結果を見て彼は目をむいた。

部屋に布団が二組、きっちり並べて敷かれていたのだ。

A社の社長曰く、

「あれは本当にびっくりしましたよ」

そりゃそうだろう。何しろ旅館は貸切なのだ。他にいくらでも部屋はある。何故一つの部屋に布団を引くのだ。しかもぴったり並べて。

でも、結果から言うと宿の人の手違いだった。

うちの社長が部屋に来てそれを見るなり「何だコリャ」という話になってクレームをつけたそうだ。当然ながら、別々の個室で寝ることになったらしい。普通そうだよな。

でも、最初それを見たA社社長は心底驚いたと話を続ける。この辺は関西人だ。

「もうね、会社を売るっていうのはこういうことなのか、と悲しい気持ちになりましたよ」

本当に悲しそうな声で言うもんだから笑いが止まらない。
うちはそんな会社じゃないっての。

「一瞬覚悟を決めたんですけど、でも、間違いと分かってほっとしましたよ(笑)」

えっ?

覚悟決めてたの??

今度はこっちがびっくりした。
すごいこと言ったよ今。

何気ない一言だけど、経営者の覚悟というものを見た気がした。

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