電力需要グラフで分析してみた

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東京電力が3/22から公開している「電力の使用状況グラフ」。需要の実態を知る上ではまだ不足している情報も多いのだけれども、せっかく東電さんが作ってくれていることもあるので、公表されているデータを使って現状どうなっているかを分析してみた。

使用したデータは27日(日)と28日(月)の公表情報。需要実績については、28日の計画停電の実施による減少分を補正した。また、比較対象として前年の相当日のデータがグラフ上で示されているものを読み取って使用している。データの補正や数値の読み取りで若干誤差が出ていると思いますがその辺はご容赦を。

図1

まず、この時期の電力需要がどういうものかを理解するために、前年の相当日ベース(つまり震災の影響がない場合)のデータでグラフを作成してみた。縦軸が電力使用量で横軸が時刻、赤い折れ線が休日、青い線が平日の使用料推移を示している。

週末(赤い線)の電力使用量は朝6時頃から増え始めて9時頃には3,500万kWに達する。店が開き街が活動を始める時間帯だ。その後は横ばいで推移した後、夕暮れ時の16時頃になると電力使用量が増え始めて18時でピークをつける。この辺りは日没に伴う照明点灯や夕食などの影響だろう。そして、21:00以降は徐々に街が眠りにつき、電力使用量も急速に減少してゆく。

平日(青い線)の場合には、事業所や工場などの営業時間である9時~18時の間で使用料が嵩上げされる形になる。18時以降の使用料も休日より若干多い状態になっているが、これは仕事帰りの飲食や残業などの需要によるものだと考えられる。一日のピークは休日同様18:00だが、昼間の使用料もそれなりに多いのでピークが突出する形にはなっていない。

図2

同様のグラフを現在の使用量をもとに作成したのが図2だ。使用量の水準自体が下がっていることもあるが、休日と平日の差が縮まっている点が目に付く。特に18:00以降は休日とほとんど変わらない電力使用量になってしまっている。残業も少ないし、仕事後に遊びにもいかなくなってしまっているのだろうか。

営業時間帯(8:00~18:00)の電力使用量の増加分も少ない。この時間帯における平日の電力使用量増加分の累計数値(青線と赤線との間の面積)は、4,455万kw・時間でしかない。昨年の相当日では、8,900万kW・時間だったので、ちょうど50%だ。

平日と休日の電力需要の差=経済活動の活発さとして考えると、震災後の首都圏の経済活動はまだ半分しか回復していないという計算になる。

図3

今度は節電努力による効果を考えてみる。上の図は休日の電力使用量を1年前と現在とで比較したものだ。休日なので会社や工場の稼働の影響は少ないので、1年前との差はほぼ我々の節電努力の成果だと考えることにする。(地震や放射能リスクを避けて東京から脱出した人もいるが、人数が分からないのでこの影響も一旦無視して考える)

前年実績に対する今年の実績の比率(細い線と太い線の値の比)は深夜(0:00-6:00)で95%、昼間(6:00-18:00)で81%、夜間(18:00-24:00)で83%となる。3/22のエントリで節電による需要減を△22%と概算したが、結構似たレベルの数字が出てきた。まぁざっくり言って節電で2割減まで行けるという感じなんじゃないだろうか。

東京電力の供給力(一日の最大値)をグレーの線で示しているが、現在の需要は供給キャパシティのかなり下だ。今のところ週末の計画停電実施はないが、今後も週末は計画停電の心配はないかもしれない。

図4

ちなみに、平日で前年と現在の電力使用量を比較すると上の図になる。節電努力を頑張っていることに加えて経済活動自体も半減しているので電力需要がかなり低い。29日(火)は計画停電しないと東電が発表したのもうなづける水準だ。

では、経済活動がもうちょっと回復してきたらどうなるだろうか?ということで、さらに推計をしてみたのが下のグラフだ。

図5

昨年の電力使用量に対する比率として、深夜時間帯は現在と同様の95%、昼間と夜間は節電効果のみを見込んでそれぞれ87%、90%で設定した。経済活動の回復を100%として、節電効果だけを見込んだ。具体的には、昼間と夜間において、休日のデータで算出した節電効果の率の2/3で設定した。電力需要は家庭・会社・工場で1/3づつであり、このうち主として家庭と会社で節電効果が出るという想定だ。

それでも昼間は午前中に少し供給力を上回る程度ですむ。需要が供給を目立って上回るのは18:00-20:00の時間帯だ。急に寒波が来たりするとまた状況は変わるのだろうが、そうでもなければ当面注意すべきなのは夕方の需要コントロールのみということになる。

具体例を挙げると、例えば、法人において残業をなくす(もしくは18:00-21:00まで休憩を入れて、その後働く)とか、夕食の時間をずらすとか、ゴールデンタイムにテレビを見ない(!)とか・・・。何だか子供じみた話になってしまって嫌になるが、かなりピンポイントの需要コントロールなので、ベタに節電節電と言うよりもこういう小技を具体的に詰めて行った方が良いんじゃないかという気がする。

まぁ、この試算は経済が100%回復した状態の推計なので、まずは現状50%のものを100%にしていきましょう、というのが先なんですけれども。

図6

ちなみに需要ピーク調整のアイデアとしてサマータイム導入というのがあるけれども、これがどの程度効果あるのかはよく考えた方が良いかもしれない。上の図は平日と休日の需要の差を取り出したグラフで、ある意味これが法人(会社+工場)需要だとも言えるわけだけれども、見ての通り18:00で一旦下がった後は横ばいで推移している。サマータイムで1時間これを前倒しにしても、問題になっている18:00-20:00のピークコントロールへの効果は少なそうなのだ。

時間帯ごとの価格を変えれば市場原理により適正な需要分布になるという議論もあるけれども、電力需要がどの程度の価格弾力性を持っているのかよくわからないし、最終的に適正なバランスになるとしてもそこに至るまでに結構な時間(数ヶ月でなく数年)かかりそうな気もするので、にわかには支持しにくい。

深夜時間帯や休日など、キャパシティに余裕がある時間帯は明白なので、大口の需要家を個別に当たってピーク時の需要をシフトしてもらうような取組をするのが現実的ではないかいう気がする。

ということで、正直言うと何となく馬鹿にしていたけどちゃんと考えてみると意外に面白かった電力使用量グラフのお話でした。

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