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見やすい表を作る実例です。あまり作りこんだ例示を作るとリアリティがなくなって却って分かりにくいので、敢えて自然体でやってみます。
題材はある会社のP/L
題材にするのは下記のP/L。ある会社の決算短信から引用しました。販管費の明細が出た方がごちゃごちゃして良いので、連結決算になる前の少し古いデータを使っています。なお、決算期ごとに若干売上区分や勘定科目が異なっていましたので、統一的な区分になるように合わせて表を作成しました。

Step1: 項目名表示を簡略化
まず、縦軸の項目名表示を簡単にして幅を縮めます。
(1) 売上原価と売上総利益が二つあって冗長なので売上総利益に統一
15行目から下に5行挿入。[D16=D4-D10]として、これをコピーしてD16:H20に貼付。再度、D16:H20をコピーして同じ場所に値貼付(これで数式がなくなり値が固定される)して、9~15行を削除。売上総利益内訳の項目名と書式を整えて完成。
(2) 事業別内訳の項目名を簡略化
「モバイルインターネット売上高」は文字数が多くてスペースをとるので「モバイル」に短縮。その他の項目もいちいち「売上高」とついていて鬱陶しいので削除。できあがったら、C4:C8 をコピーして売上総利益の内訳欄(C10:C14)に貼り付け。
(3) 販管費の項目名を短縮
「販売費及び一般管理費」を「販管費」に短縮。「貸倒引当金繰入額」を「貸倒引当繰入」に短縮。これで項目名が全て6文字以内になります。
貸倒引当繰入は正式名称ではないですが、この科目自体あまり重要でないので、これで項目欄のスペースを圧縮できるメリットの方が大きいと判断しました。
(4) 項目列の幅を縮小
項目欄の幅を項目名+若干の余白、という形になるよう縮小。具体的には、C列を 26.00→14.00 へ縮小。
次に、横軸の表記を簡略化して幅を縮めます。
(5) 数字の単位を千円から百万円単位に変更
会社全体の損益トレンドを見るという前提で考えた場合、売上高で3~4桁、利益で2-3桁程度あれば十分議論はできるので、単位を変更して数字の表示桁数を減らす。
作業的には、[J3=D3/1000]として、これをコピーして J3:N32 に貼付。次に、J3:N32をコピーしてD3:D32に値貼付け。用済みになった J3:N32を削除して、I2を”(百万円)”に変更すればできあがり。
(6) 数字部分のセルの幅を縮小
桁が少なくなった分スペースが開くので、バランス良く見えるように幅を縮小。具体的には、D:Hの列幅を 10.00→7.00 に縮小。
で、ここまでやると下の図のようになります。

Step2: いらない情報の伐採
さて、次は伝えたいメッセージを考えながら情報を伐採していきます。
(7) 事業別区分の集約
事業別売上高の推移を見ると、02/3期にはモバイルと製品の二本柱だったのが、03/3期から製品事業がなくなって売上高が一旦大きく減っています。その後、基本的にモバイル事業が主力ですが、徐々に商品やゴルフといった新しい事業が拡大してきています。こうして考えると、この会社の事業は大まかに言って、モバイル、製品、商品・ゴルフ・その他の3つにグルーピングできそうです。
現状の表示では商品とゴルフの間に製品が割って入る形になっているので、まず、製品と商品の順番を入れ替えて、製品がモバイルの次になるように並べ替えます。
次に、商品・ゴルフ・その他を区分して表示しておくかという点を考えます。
実績を見るとこれらの事業はまだ売上数億程度であり、利益貢献度も大きくありません。なので、今回は個別事業に言及せずにこれを合算して表示し、「全体として新しい事業を拡大してきている」というメッセージにすることにします。
(8) 販管費の費目の絞り込み
販管費の費目は15項目について、損益のトレンドを見るという観点から重要なものを抽出します。抽出の視点は、「絶対金額が大きい項目」と「金額の変化が大きく損益変動の要因となっている項目」の2つ。
この会社の場合、03/3期の売上減少に対応してか、04/3期に販管費が一旦大きく圧縮されて、06/3期にかけて再び大きくなっているという変化をしています。このため、「金額が変化する項目」としては、02/3期~04/3期に大きく変化した項目も考慮することにします。
抽出された科目は「支払手数料」「販売促進費」「役員報酬」「給与手当」「賃借料」「研究開発費」「租税公課」の7科目。残りは「その他販管費」として合算表示することにして、内訳は欄外の注記として表から追い出します。
次に、抽出された科目の順番を並べ替えて、グルーピングします。
金額の一番大きい「支払手数料」を一番上とし、これと同様変動費的な費目である「販売促進費」を次に持ってきます。2番目に金額の大きい給与手当は役員報酬とセットにして人件費グループとして表示。残り3項目はその他と並べて表示。
これでその他を含む8つの費目が、2-2-4 という形で3つのグループに分けられます。罫線でグルーピングを視覚的に表現しておきます。
ここまで整理したのが下の図。

大分すっきりしたと思いますがどうでしょう?
損益分析としてはかなり初期的なものですので、ハイライトすべき情報に間違いがあるかもしれません。ただ、作り手の現段階での考え方が明確に表現された表になっているので、賛成するにしろ反対するにしろ、議論がしやすい表だと思います。
Step3: 詳細情報もキープする
分析やまとめ方の間違いの可能性を考慮して、科目をまとめる際には元データを消去しないようにします。今回の場合でもメインの表は上の様になりますが、欄外の注記でまとめた費目や出所などを必ず表示するようにしておきます。これらは小さい文字であったり、あるいは別のページであっても構わないのですが、もしもの時に参照できるようにしておくのが安全です。
こういう形でセーフティネットを張っておく一方で、主題となる表では自分の分析を明確に出して「勝負する」。これが私の提案するスタイルです。

メインの表を明快にすることで、さらに検討を深められるメリットもあります。
この会社の場合、売上構成が大きく変化している一方で、よく見ると主力のモバイル事業の利益率が大きく改善しています。売上高の拡大に伴ってスケールメリットが効いてきているのかもしれません。
図1の表だとこれだけで紙面が一杯になってしまいますが、図3の形にまで表をまとめておくと、余ったスペースで追加分析的なデータを提示することもできるわけです。下記は参考情報として売上構成比(メインとなるモバイル事業の構成比に注目させる)と、事業別売上総利益率(モバイル事業の利益率改善がポイント)を付加したものです。

アウトプットを明快にすることにより検討結果を容易に共有でき、さらに、先の議論に歩を進めることができるというのが感じ取って戴けると思います。
表の構成が整理されていれば、作業的には大きな負担ではありません。もちろん、エクセルの複雑な機能や関数を覚える必要もない。比較的簡単な約束事をしっかり徹底させてゆくことで、仕事の効率が大きく変わってくる。
こういうのが実戦で意外に大きな差になってきますので、習慣として身につけることをお勧めします。
私も好みのエクセルテンプレート使用派です。
もちろんボタンも一個一個カスタマイズしてます。
値貼り付けと書式貼り付けのほかグループ化もかなり重宝してます。
エクセルの使い方がマニアックとよく人から言われますが
効率よく継続して使用出来るファイルに仕上げる楽しみが
エクセルにはあると、かなりのエクセルマニアです。