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今日は太陽電池市場を題材に話をしたい。
ご存じの通り太陽電池市場は2000年代後半になって急速に拡大した市場の一つだ。2004年に全世界で4,000億円規模だったものが、2008年には6倍の2.5兆円にまで達した。金融危機後の景気後退で一旦大きく落ち込んだものの、今後はまた成長軌道に戻り、年平均で約15%という力強い成長をすると予測されている。
太陽電池の市場は当初はシャープや三洋電機などの日本勢が上位を独占していたが、ここ数年で大きくシェアを落とし、上位5社にはシャープが辛うじて残っているに過ぎない。
日本では太陽電池というと、家屋の屋根の上に置くモジュールが想起されるが、グローバルでは「発電所」への納入が圧倒的に多い。広い敷地に太陽電池をびっしり並べて大量に発電を行い、それを売るという事業なのだ。
その背景になっているのが政府が自然エネルギー活用促進のために導入しているFIT(Feed-in Tariff)制度。簡単に言うと、太陽光発電の電力を高値で買い取る制度だ。良い条件で売上が保証されるのだから市場が活性化する。2000年度後半はドイツが、次にスペインがこの制度を導入して市場の牽引役になった。
メーカーの人に話を聞いて知ったのだが、欧州での太陽光発電事業は一種の金融商品のような形になっている。
FIT制度のおかげで一旦発電所を作れば売上が長期安定的に保証される形になるのだ。発電設備には一定の初期投資と運用コストがかかるが、これはある程度事前に見積もることができるので、売上と費用が高い確度で予測できるということになる。投資と利回りという観点で見ると、これはマンションを購入してそれの賃料収入で配当を得るような金融商品とあまり変わりがない。
このため、投資資金が流入して大量の太陽光発電所が建設されることになり、市場が爆発的に拡大したのである。太陽光発電が普及するというので、何らかの技術革新が牽引力になっているのかと思っていたが、実は非常に金融チックなメカニズムで動く市場だったのだ。
一方、太陽光発電の重要部品である太陽電池の業界では、ここ数年新規参入が相次いでいる。欧米メーカーだけでなく、新興国メーカーの台頭も著しい。2001年には中国のサンテックパワーが参入し、2005年にはインドのモーザーベアPV社が参入した。サンテック・パワーは2008年の世界シェア3位にまでなっている。
市場成長が著しいから参入したい企業も多いだろうが、メーカーである以上それなりの技術が必要なはずだ。欧米企業はともかく、中国やインドがこの分野で急速にキャッチアップしたということだろうか?
実はそうではなくて、製造設備を作るメーカーが標準的な生産ラインをパッケージとして提供しているのである。
アプライドマテリアルやアルバックといった設備機器メーカーが、必要な設備機器全てとその設置、さらに生産の立ち上げに至るまでを「ターンキー・ソリューション」として提供している。「ターンキー」というのは、工場が全部できあがって生産設備のスイッチを入れるキーをひねればOKというところまでやりますよ、という意味だ。実際にはターンキーどころか、生産の初期段階の不良率の保証まで行うという話も聞いた。至れり尽くせりとはこのことだ。
こういう状況なので、ものすごく大ざっぱに言うと、太陽電池事業をやりたければ、お金と工場建設用地を用意して後は設備機器メーカーに丸投げすれば良い。技術力は金で買えるのである。逆に、大事なのは資金調達やアウトソーサーのアレンジといったファイナンス的な機能になってくる。これは技術力などを基盤にした従来のメーカー像とはかなり違ったモデルだと言える。
以前から「ファブレスメーカー」なるものは存在していたが、営業力なり企画力なりといった何らか社内で培った能力のようなものが前提となっていることが多かった。ところが、ここ最近は上記の例の様に、まるで投資商品を作るような形で事業を組み立てる例が出てきた。太陽電池もそうだが、似た製品である液晶ディスプレイも同様の構造になっている。電機以外の業界でも、これと似たような発想で事業を組み立てている例をよく目にするようになってきた。
長くなってきたので今回はこのへんで。また、次回に続きます。