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80年代以降の大きな変化として忘れてはならないのがアウトソーシングの拡大だ。
コンシューマエレクトロニクス分野ではがEMS(Electronics Manufacturing Service)と呼ばれる製造受託企業が台頭してきた。最大手は台湾の鴻海精密工業(Foxconn)で、ここは欧米などの電機メーカーから多様な製品の製造を受託している。最近ではiPhoneの製造受託で話題になった。ソニーも昨年、TVの米国のTV製造工場をFoxconnに売却し、ブラビアの生産を委託することを決断した。電機製品は自社で製造するよりもEMSに委託する方が効率的だという時代になってきている。
EMSはもともとはPC部品の製造外注先として始まった業態だと聞いている。PC市場の拡大に伴って受託量が増え、欧米PCメーカーの厳しい要求で鍛えられて品質や納期管理などが改善された。そして、その次に来たのが携帯電話で、この市場も見る間に拡大してEMSへの受託量が大きく増えることとなった。元来利幅が薄い業態なので、90年代以降業界再編が進み、鴻海の様な巨大EMSが誕生することとなった。同社の売上高は今や約7兆円に迫る勢いであり、これはソニーの連結売上高に匹敵する規模なのである。
半導体の業界では、ファウンドリ(Foundry)と呼ばれる半導体の受託製造企業群が存在している。最大手のTSMC(台湾積体電路製造)は製造を受託するだけでなく、半導体設計に関わるライブラリを構築して設計の標準化を進めている。ライブラリを使うと、ある一定の機能単位でモジュール化されたものを組み合わせて設計してゆく形になるので開発そのものも大幅に効率化される。今TSMCに製造委託する予定はなくとも、将来的に製造委託するときにはTSMCの設計様式に従った方が話が進めやすいということもあり、このライブラリを活用する企業が増えている。結果、TSMCは半導体回路設計の世界標準をリードする形になってきている。
アウトソーシングは製造面だけではない。インドはITアウトソーシング企業が多数存在している。システム開発の外注先としてだけでなく、コールセンターや請求書発行などの事務処理の受託まで行っている。オフショアで行うことで人件費の単価が下がることもあるが、多くの企業の業務を受託する中で、最も効率が良い業務プロセスを他の会社にも横展開することで業務改善を図ったりもしている。また、ITやインフラ投資でスケールメリットを生かすことも行っている。
アウトソーシングの対象分野はどんどん拡大しており、研究開発のアウトソーシングなるものまで起こりつつあるという話も聞いたことがある。研究開発は企業の競争力の根幹なのでアウトソースにそぐわないように思えるが、開発の全体像はあくまでも発注者が押さえていて、個別の作業(例えば個別の実験とか、試験など)をばらばらに外注に出すということらしい。こうすると研究開発の意味合いは秘匿したまま作業に関わるコストを下げてゆくことができるわけだ。
「外注」という概念は昔からあったが、アウトソーシング業界として拡大してきた要因は、受託側が規模の経済を生かし始めたということだ。業界各社が実は同じことを重複して行っていて、これをまとめて規模を作ればより低いコストを実現できる。一方、重要なのは業務や仕様が標準化されているということだ。外注委託する各社が各社各様のやり方に拘っていたのではアウトソーサー側もスケールメリットを追求できない。標準化はアウトソーシングは表裏一体の関係にあるのである。
各社は共通業務で下手なこだわりを捨てて標準化を受け入れ、それをアウトソースすることで大幅なコストメリットを享受する。一方、自社の差別化に本当に重要な部分には徹底的に資源を集中する。これが今の経営の定石だ。
日本企業はこのトレンドに乗り切れていない例が多い。いつまでも自社工場や独自仕様に拘って大胆にアウトソースを活用するような決断には時間がかかる。ソニーは昨年TV製造をアウトソース型に転換したが、過去ずっと赤字続きの事業だったのだからもっと早い段階で決断しても良かったと思う。
特にコンシューマエレクトロニクスの業界では、製造は先進国企業のやることではない、という潮流になってしまっている。「標準化による低コストの実現」という勝利の方程式を覆すだけのメリットが見えない限り「ものづくり日本」という言葉は郷愁にしか聞こえない。
日本企業の問題点については、言いたいことが山ほどあるが。これは別途改めて整理することにする。
まずは、グローバル経営の「定石」を描き出すことを先にしていきたいと思う。
ということで、この続きはまた後日。