(読了時間=約 2 分)
日本企業がグローバル市場で苦戦している理由の一つとして、グローバル市場における競争の「定石」に乗り切れていないことがある。トレンドが変わり始めたのは90年代以降で、近年それが極めて明示的になってきている。
コンサルティングの仕事をしていても、数年前くらいから、日本企業の課題を描き出す際の”アングル”に共通するものが増えてきた。ソフトウェア、コンシューマエレクトロニクスといった分野のみならず、食品・飲料業界や鉄鋼業界の議論においてすら、よくよく考えてみると同じ構図で議論しているということが多い。もう、既視感の連続だ。
改めて考えてみると、冷戦が終結し、インターネットが普及を始めた90年代以降、世界は大きく変貌した。未来の歴史家は、我々が生きているこの時代に名前を付けるに違いない。そして未来の歴史の教科書には、宗教革命、産業革命などと並んで90年代以降の数十年間のことが記載されるはずだ。それだけの大きな変化が今、起こっている。
この変化については、部分部分で書籍や記事が出ているのを見るが、全体像をうまく描ききったものは見たことがない。自分がうまく表現できるかどうかはわからないが、会食などでこの種の話をすると比較的受けがいいので、少しまとまった形で書いてみたいと思う。
注目すべき経営トレンドの第一は、規模の経済を生かした競争が激しくなっていることだ。規模の経済という概念は従来からあったが、それが通用する業界もあれば、それ以外の要素で競争が起こっている業界もあるというのが、従来型の理解だ。しかし、今のグローバル経営の流れでは、あらゆる業界においてスケール(規模)をまず追求するという流れになってきている。元来、規模の経済が利かないと言われていた分野でも、スケールが効く部分を探し、そこを集中的に強化することで全体の競争力を上げてゆくというのが今の流行の経営スタイルだ。
たとえばゲーム業界。ゲームというのは、どんなに小さな企業であっても面白いゲームを作りさえすれば一躍業界トップに躍り出ることができると言われた業界だ。発想次第で下克上がいくらでも起こるということで、ベンチャーとして夢を抱くことができる業界だった。
これに対して、米Electronic Arts社(EA)は数多くのM&Aにより、規模を生かした競争力を実現した。彼らはまず、FIFAのライセンスを獲得した。サッカーは世界中にファンがいるし、FIFAの公式ゲームともなれば当然人気が出る。そしてヒットしたゲームタイトルを買収して第二弾、第三弾を出す戦略をとった。当然ながら、過去ヒットしたソフトの第二弾はそれなりに売れる確率が高い。販売地域も米国だけにとどまらず欧州などほかの地域にも積極的に展開した。FIFAのゲームであれば世界中で売れるし、販売地域を広げればそれだけ多くの売上を獲得できる。
規模が大きくなると、それを生かしたゲームが始まる。X-Box向けのソフトの開発に投じた開発投資は他社より桁一つ大きな金額だった。金をかければヒットの確率は上がる。映像を作り込むこともできるし、優秀なクリエイターをヘッドハントすることもできる。そして、当然ながら広告宣伝費も大きく投じることができる。また、ゲーム売り場の6~7割を同社の商品が占める状況なので、新しいゲームを「とりあえず」置いてもらう、ということが苦もなく可能になる。
ゲームである以上、1本1本のタイトルがヒットするかしないかは保証の限りではない。しかし、ヒットの確率を左右する要因はいくつかあり、規模を生かせば、一つ一つの確率を着実に上げてゆくことができる。そしてその結果、規模の小さい他社よりも安定して収益をあげ続けることができるようになる。
ゲーム業界は曲がり角にきていて、今はEAも収益的には苦しんでいるという話を聞くのであまり良い事例ではないかもしれないが(ほかの例を調査している時間がないもので)、言いたいことはわかってもらえると思う。
規模競争と言っても漫然と規模を拡大するという大味な話をしているのではない。自社のビジネスの中で、規模が効く領域を見極め、そこを徹底的に強化する。それによって、全体としての競争力を底上げしてゆくという戦略なのだ。なぜ規模に注目するかと言えば、M&Aやファイナンス技術によってその実現可能性が高くなったからだ。より確実に強化できるのだから、そこに注目しようとするのは当然だ。
読んでいてわかると思うが、規模競争に企業が走る背景として、別の革命的変化がある。今の経営革命はいくつかの変化が絡まり合って起こっているのが特徴だ。だからなかなか全体像を語れないのかもしれない。いろんな角度の話を織り交ぜながら、これから順々に話をしていきたい。
この続きはまた後日。