避難地域の範囲について

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今回の原発事故で政府は11日に半径3kmを避難地域、半径10kmを屋内退避としたが、12日に起きた一号機の水素爆発の後、避難地域を半径20kmに、屋内退避を20km~30kmに拡大した。

その後、14日に三号機の爆発、15日には二号機でのサブレっションプール破損や四号機の爆発があったが、避難地域について特に変更はされなかった。一方、米国は翌16日に半径80kmをevacuation zone として設定した。

両者の設定が大きく異なることでその後数日間若干の混乱があった。外国の日本に対する評価なので若干保守的になるのは止むを得ない(本人が良くても本国の家族が心配する)と思った。80kmは50マイルであってキリの良いところで設定されただけだという説明もあってそなりに納得性はあったけど、じゃぁ何で日本は50kmじゃないんだという疑問は残ってた。

ところが先日、NYTで掲載された避難区域のチャートを見て、ふと気づくところがあった。

Source: New York Times

原発からの距離とその地域に住む人口が書かれている。人口のところを見てゆくと分かりやすいが、30km(19mile)圏内の人口は139,000人なのに対して、20-30mile(30-50km)の人口は354,000人にもなる。これはいわき市の一部が含まれてしまうためだ。距離をさらに40mileに広げると郡山市や福島市が含まれることになり、人口は979,000人も増えることになる。避難対象者が多くなるといろいろ問題が大きくなるという点を考えると、30kmというのは一つの閾値になっていることがわかる。

一方、放射性物質の飛散はそれなりに広範囲にわたっていたことが推計されている。政府はSPEEDIというシミュレーションシステムを持っていて、今回の事故に関する飛散シミュレーションの結果が22日頃に公開された。

SPEEDIの資料に原発からの距離(同心円)を書き加えて作成

放射性物質の飛散は風向きや大気状態(対流の大小)によって決定されるそうで、同心円状に広がるわけではない。今回のシミュレーションでもヒトデ型に影響範囲位が広がっており、北西方向では50kmを超えるところまで影響が及んでいたことが見て取れる。

同時期に米国エネルギー省が推定値(これは確か米軍が航空機を飛ばして測定したデータ)を公表している。南西方向への広がりには若干の差異があるが、北西方向に長く影響が及んでいるという点ではSPEEDIと同様の結果となっている。

Source: http://p.twipple.jp/bM97E

31日にIAEAが飯舘村の土壌から高い放射線を検出して日本政府に勧告を行ったが、上記の状況を考えると、ごく当たり前に指摘が起こっただけのように思える。原子力安全保安院が反論していたが、聞いていて「官僚の無謬性」という言葉が頭をちらついた。正直、納得感はない。

ちなみに、下記の通り放射性物質の飛来が多かったのは15日夜だったようで、それ以降は放射線レベルは漸減傾向となっている。ヨウ素の半減期は短いのでそう遠くないうちに問題ないレベルに落ち着きそうにも見えるので、結果的には当地に住んでいる人にとっても大きな影響はないかもしれない。

Source: http://plixi.com/p/87752170

ただ、これは政府の意思決定上のバイアスを示す分かりやすい事例のようにも思える。

東京都民として考えた場合、今回は大きな影響はなかったが、今後、何らか避難の検討が必要になるような事故や天災が起こった場合、同様の判断バイアスが起こる可能性は考慮しておくべきだと思う。これは構造的な問題なので、政権が変わっても同じはずだ。

災害時に正しい判断をするために、こういった事例は忘れずに記憶にとどめておきたい。

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