ETV特集「アメリカから見た福島原発事故」

(読了時間=約 2 分)

日曜日22:00から放送されたETV特集「アメリカから見た福島原発事故」を見た。

福島原発1号機に使われたGEのマークⅠという原子炉は設計上の問題があり、他の型の原子炉よりも重大事故に対して脆弱である、という指摘が1980年代初頭にされていたという話から始まる。

当時のGEの技術者やリスク評価をした研究機関の人たちへのインタビューで、一号機の水素爆発までの経緯がまさに彼らが20年以上前にシミュレーションしたとおりの内容だったと明かされるというもの。

当時米国ではこの指摘は原発推進派の反対を受け、たまたま米国ではマークⅠは地震の起こらない東側にしかないということもあり、「ベント」を付けるだけの対応で運転継続ということになった。日本にはこの「ベント」は導入されたものの、議論の本質はちゃんと伝わらず、地震というリスクがあるにも関わらず問題が放置されたということらしい。

原発事故が設計上の視点から予測できていたというので、彼ら米国の技術者・研究者たちが事故後の対応でどのように日本を支援しようとしたのかが気になったが、番組の焦点はそこではなく、確率の低いリスクを無いものとして議論から外した日本のリスク管理体制の指摘へと進んで行ってしまった。

それでも、NHKらしいしっかりとした番組でいろいろ考えさせられる内容だった。

第一に、事故の原因について。
現状のところ事故の引き金になったのは地震の揺れではなく津波による全電源喪失とされているが、「原発を終わらせる」という本では、地震の揺れにより配管が損傷して冷却水が喪失していた可能性が指摘されている。

原発反対派の人の本なので、ややバイアスを感じるところもあるが、可能性そのものは否定できない。本番組でもアメリカ側のインタビュー対象者全員が、津波だけでなく、「地震」と「津波」のリスクの両方を指摘して論を展開していた。対して、日本人に対するインタビューでは津波による全電源喪失が原因と明確に言われており、この点の検証をもっときっちりやって欲しいと思った。

第二は、一号機の格納容器上蓋。
番組中に出てきた写真が目を引いた。格納容器の圧力が高くなり隙間ができた証拠として、水素爆発後に撮影された映像として、上蓋をとめたボルトが浮き上がっている写真が出てきた。

遠めで見てもはっきり分かるほどボルトが突き出ている。ボルトだけが単独で動く理由は無く、この動いた分だけ上蓋そのものが浮いていたと考えるべきではないかと思う。とすると、かなりの高さまで上蓋が動いていたということになり、一体どれだけの隙間ができていたのかとも思う。

隙間の大きさと、それによる影響は別個に考えるべきだとは思う。例えば、7月3日に5号機で冷却用の仮設ポンプから水漏れが起きて冷却装置が一時停止していたが、その水漏れの写真が上の写真だった。一般的な感覚で言う「水漏れ」のイメージとは大分違うと思わずツッコミを入れたくなるが、プラント設備だと全体的に規模が大きいのでこんなもんなのかもしれない。

まぁそうは言っても、格納容器に大きな変化があったことは事実だと思うので、この原因やこれによる影響はちゃんと評価して教えて欲しい。

第三は、東京電力のリスク感覚。
番組の中断で、東京電力が1993年に非常用電源装置の設置変更をした際の図面が出てくる。非常用電源2基を海側の地下に置くというもの。

これを見たアメリカの国立研究所の元所員はこれは重大なミスだと指摘する。2基を同じ高さに置き、吸気口も同じ高さに置くとリスク分散になっていないと。当時の東京電力の副社長もインタビューでこの図面を見せられて驚いていた。「何でこんなことやっちゃったの。設計ミスです」と。

これで思い出されたのは2006年の首都圏大規模停電だ。旧江戸側上を航行中のクレーン船が川を渡る高圧線をひっかけて断線させ、東京23区東部や千葉、横浜、川崎など幅広い範囲で停電が起こった。(事故についてのWikipediaはこちら

高圧線にはバックアップ用の系統もあったが、ほぼ同じ場所に張られていたためクレーン船が2系統とも切断してしまい、バックアップの役に立たなかった。

リスクを回避するための冗長設計にはいくつかの基本的な定石があるが、それが東電の現場で忘れられているような印象を受ける。この点もしっかり究明されてゆくべきだと思う。

***

福島原発事故は、事後処理の完了にはまだ長い年月がかかるものの、当面の危機的状況は脱しつつある。そろそろ、当時何が起こったのかを徹底究明する段階に来ていると思う。当事者の分析で終わらせることなく、さまざまな視点からしっかり検討してゆくことが重要だ。

そういうことを考えるにあたり、いろんな示唆や刺激を与えてくれる良い番組でした。
再放送があると思うので、時間が有ればご覧になることをお薦めします。

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