思考体力

(読了時間=約 2 分)

人間は考える葦である、というのはパスカルの言葉。
確かに人間は考える生き物だけれども、実は、考え続けることはあまり得意ではない。

パズルやクイズなどの娯楽でも、難しい問題を1時間も2時間も考え続けるのは結構辛い。いわんや、仕事上の難問をや。

時間が問題なのではない。
例えば、簡単な問題を沢山解くのはそれほどストレスはない。それを1時間でも2時間でも続けることはできる。1つ解くごとに達成感があり、難問も解いていくことで進捗感が得られるからだ。

問題なのは「解けない」という状況だ。
1時間以上、ああでもない、こうでもないと考えても全く解けない。何も達成しないし、進捗も全くない。今後、問題が解ける目処も立ってこない。

このような状況に置かれると、人は耐えられないほどのストレスを感じる。

コンサルタントになると、仕事柄こういう経験をすることが多い。
また、こういう状況の中で苦悶する人々を目にする機会も増えてくる。

さて、そのような状況に置かれると、人はどうなるのでしょうか?

答えは、その状況から逃げ出そうとする。
これは生き物の本能というものだ。

一番目のパターンは、や~めた、と考えるのを止めてしまうこと。

パズルやクイズだったら、それで済む。「降参」って言ってしまえばいい。
でも、仕事だったらそうもいかない。しかも、コンサルティング会社の場合には、それ自体を解くことを請け負っているので、なおのこと、逃げようがない。

で、二番目のパターン。「とりあえずの答えを出す」こと。

自分的に納得感のある仮説やストーリーに飛びついて、それが答えであるとして先に進もうとする。
正確に言うと、答えであって欲しい、のである。
だから、その答えと矛盾する分析結果は忘れ去る、見なかったことにする。
ロジックも若干こじつけ気味にその答えに結びつける。
それで相手を「説得」しようとする。

若手コンサルタントなら誰でも陥るパターンだが、残念ながら、それを看過するようなマネージャーはいない。
ミーティングでボコボコに論破されて、また元いた荒野に放り出されるのだ。

三番目のパターンもある。それは「作業に逃げる」こと。

重要な問題ではないところで延々作業をして分厚い資料を作り上げる。

例えば、会社の収益予測のシミュレーションをしたときに、データソースの信頼性が問題になっているとする。別のロジックで分析して収益の安定性を証明しなければならないのだが、そのロジックがなかなか作れない。

そういう状況下で、ある若手コンサルタントがやったのがシミュレーションの精緻化。さらに分厚くなったシミュレーションシートを手に、「収益の成長率が5%でなく5.2%であることがわかりました」、と言ってきた。

全然そういう問題じゃない。そもそもデータソースの信頼性がない中で精緻に計算しても意味がない。それに5%でも5.2%でも経営判断に影響はない。

彼も、そんなことが分からない人間では恐らくはない。ただ単に、問題が解けないのだ。そしてそこから逃げて、作業に没頭しているわけである。

作業というのはそれなりに手間もかかるが、やれば進捗するし、見える成果が上がるので精神的にはそれほど苦しくはない。作業で徹夜になったとしても、解けない問題で悩むよりは全然楽なのである。

しかも作業というのは煙幕効果もある。
精緻で複雑な分析をするとだんだんブラックボックス化してくるので、相手に突っ込まれるリスクが少なくなる。また、本質的な問題を検討しろと指示されても、今の仕事で忙しくてそこまで手が回りません、と言い訳できる。

こうして改めて考えると「作業に逃げる」のは、二番目の「とりあえず答えを出す」よりかなり有効に機能しそうに見える。

でも、残念ながらコンサルティング会社の中では通用しない。
報告を聞いた後、マネージャーがひとこと、冷ややかに言うのだ。

「また、作業に逃げたよね」

そして若手コンサルタントはまた奈落の底に突き落とされる。

通用するわけがないのだ。
だって、みんな通ってきた道なのだもの。

問題が解けないというのは実に辛い。逃げ出そうとしても逃げられずそこにまた戻り、苦悩し、悶絶する。でも、こういうことを繰り返していくうちに、だんだん耐性がついてきて、その状況下でも考え続けられるようになってくる。

「思考体力」がついてくるのだ。

思考体力というのは読んで字のごとく、考える体力のこと。
問題解決の方法論をいくら学んでも、思考体力がない人には難問は解決できない。本を売る時には誰も言わないけれども、これは厳然たる事実です。

スポーツでもそうでしょう。技術があるから筋トレしません、なんて人はいない。

技術を活かすためには体力が必要。
これは問題解決の場合も同様です。

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